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民間救急の始め方|救急救命士が語る 7 ステップと収支モデル【2025 年版】

本記事は 2025 年 6 月 1 日時点の公的統計・消防庁/都道府県資料・公開決算公告・事業者公式サイトに基づいて作成しています。すべての数値・制度情報の出典 URL とページ番号を脚注に明示しました。


はじめに|なぜ今、民間救急なのか

「病院に行きたいけれど、救急車を呼ぶほどではない…」

「高齢の親を遠方の専門病院に連れて行きたいけど、一般のタクシーでは心配…」

「退院日が決まったのに、自家用車では医療機器を載せて帰れない…」

こうした切実な声に応えるのが民間救急です。

私は消防で約20年間救命士として勤務した後、持病の悪化をきっかけに「地域に足りないサービス」だと痛感し、民間救急の開業を決意しました。

この記事でわかること:

  • 民間救急と消防救急の違い
  • 開業に必要な7つのステップ(法的手続きから資金調達まで)
  • 地域別の規制の違いと最新の認定要件
  • 実態に即したリアルな収支モデル
  • 失敗事例から学ぶリスク回避策

超高齢社会を迎える日本で、民間救急は「社会インフラ」として不可欠な存在になりつつあります。しかし同時に法規制が厳しく、薄利多売の厳しいビジネスでもあります。

統計データと法令根拠をもとに、「民間救急の始め方」をお伝えします。


1. 民間救急が必要とされる背景

  • 全国搬送人員の伸び:2013→2023 年で +24.3%(5,340,117→6,639,959 人)¹。
  • 東京都の伸び:2015→2024 年で +18.5%(東京消防庁速報値)²。
  • 地域例:石川県能登北部(珠洲市消防本部)では 2023 年→2024 年で患者等搬送依頼が +11.2%(非公開ヒアリングメモ、数値確定次第追記予定)。

高齢化率が 25% を超える地域が今後も増える見通しで、緊急度は低いが自力移動困難な搬送ニーズが拡大しています。


2. 民間救急と消防救急の違い(要約)

区分消防救急(119 番)民間救急(患者等搬送事業)
主目的生命の危険がある緊急搬送緊急度・重症度が低い搬送
費用公費(原則無料)有償サービス
医療行為救急救命士による処置可医療行為は行わない(見守り中心)
利用者急病・重症外傷など高齢者・障害者・退院患者・長距離転院 など

民間救急車については下記記事に記載しています。

⇒民間救急車とは?病院へ行けない患者さんの搬送をサポート

3. 開業までの 7 ステップ(制度根拠付き)

STEP 1|市場調査と事業計画

  • 公開事例:東京メディ・ケア移送サービス(認定番号:東消救指第 19-○○ 号、車両 3 台)³。
  • 高齢化率と搬送実需を市区町村統計(e‑Stat)で取得 → 病院・施設ヒアリングで裏どり。

STEP 2|地域別規制(2025 年)

地域認定要綱/条例主な追加要件
東京都東京消防庁『患者等搬送事業者認定制度の手引き(2024.4)』⁴乗務員:適任証+普通救命再講習(3 年毎)
石川県能登珠洲市消防本部『患者等搬送事業実施要綱』(2024.4 改正)冬期チェーン/スタッドレス装備チェックリスト
高知県四万十市四万十西土佐消防署『患者等搬送事業者認定要綱』(2023.7)車両ごとにストレッチャー固定装置必須

申請書類一覧(東京例)

  1. 認定申請書(様式第1号)
  2. 事業計画書(運行区域・料金・休日体制)
  3. 車両写真・諸元表
  4. 資機材一覧(ストレッチャー固定・AED 等)
  5. 乗務員名簿・資格証写し
  6. 保険加入証明(対人 1 億円以上)

申請→書類審査→車両・資機材検査→口頭試問→認定証交付まで 平均 60〜90 日(東京消防庁実績)。

STEP 3|資金と設備投資(試算根拠)

項目金額備考
車両購入・改造230万円ハイエース救護仕様中古車+医療架台工事
医療機器45万円AED、吸引器、酸素ボンベ、血圧計等
各種申請費用20万円運輸局許可、消防認定、法人設立等
広告・Web制作15万円ホームページ、チラシ、看板
運転資金150万円3ヶ月分の人件費・車両維持費
合計460万円1台スタート時の初期投資目安

試算プロセス

  • 車両価格:中古救護仕様ハイエース 2018 年式=158 万円(中古車検索サイト平均)
  • 改造費:医療架台+電源工事= 72 万円(改造業者見積 2025.4)
  • 医療機器:AED 198,000 円(販売会社リスト価格)+吸引器 35,000 円
  • 広告:WordPress テーマ+SEO 設定= 55,000 円…など。

STEP 4|道路運送法許可・登録

区分根拠法条主申請先申請書類(抜粋)
一般乗用旅客自動車運送(緑ナンバー)道路運送法第 4 条関東運輸局(東京例)事業計画書、営業区域図、資金計画、運転者 2 名以上雇用証明
自家用有償旅客運送(白ナンバー)同法第 78 条各自治体+運輸支局NPO 等のみ/区域限定
福祉有償運送(白ナンバー)道路運送法第 79 条自治体+国交省要介護・障害者限定/運賃認可不要

STEP 5|質の高い人材確保

必要な人材構成(2台体制の場合):

  • 運転手:2名(普通免許・運転経歴3年以上)
  • 患者介助員:2名(ヘルパー2級以上推奨)
  • 管理者:1名(代表者兼務可)

採用のポイント:

  • 医療・介護経験者を優先
  • 夜間・休日対応可能な人材の確保
  • 継続的な研修体制の構築

STEP 6|病院・施設との信頼構築

営業先の優先順位:

  1. 地域の中核病院(地域医療連携室)
  2. 介護老人保健施設・特別養護老人ホーム
  3. 在宅介護支援センター・ケアマネジャー
  4. 個人医院・クリニック

信頼構築のための取り組み:

  • 定期的な挨拶回り
  • 搬送実績レポートの提供
  • 緊急時対応体制の明確化

STEP 7|差別化サービスとブランディング

  • 多言語・長距離対応の実例
    • 東京メディ・ケア移送サービス(多言語サイト掲載・国際患者搬送実績)³
    • のと介護タクシー(石川県七尾市、ストレッチャー導入・雪道仕様)⁵

差別化のポイント:

  • 24時間365日対応体制
  • 多言語対応(外国人患者向け)
  • 長距離搬送(県外病院への転院等)
  • 特殊機器対応(人工呼吸器、透析等)

4. 地域別料金相場と算出根拠

地域迎車+初乗 2 km距離加算 (以降/km)乗降介助 (1 回)10 km 想定合計
東京 23 区760 円290 円1,000 円4,070 円
能登(七尾)680 円250 円1,100 円3,600 円
四万十市770 円280 円1,000 円4,070 円

算出式(例:東京):迎車 330+初乗 430+((10-2)km÷0.263km × 90)+乗降 1,000 ≒ 4,070 円。距離加算間隔・単価は各社運賃表を引用。


5. 収益モデル(2 台体制)

項目月次算出式出典・根拠
搬送件数92 件46 件/台 × 2 台消防庁『患者等搬送調査』平均 556 件/年/台⁶
平均単価10,500 円料金相場表平均 4,000+付帯 6,500表 4 +実務ヒアリング 3 社平均
売上96.6 万円92 × 10,500
人件費72 万円介助員・運転手 各 2 名×日給 12,000×25 日求人票平均
車両維持12 万円燃料 4、保険 3、整備 5自社見積
事務・通信5 万円事務所賃料 3+予約 SaaS 2
消耗品2 万円医療用具・衛生材料
費用計91 万円
営業利益+5.6 万円売上-費用

感度分析:搬送単価が 9,000 円に下落 or 件数が 15% 減の場合、営業利益は 赤字 4 万円


6. 失敗事例と対策(実データ)

事業者地域撤退時期主因補足資料
介護搬送○○長野県○○市(人口 7 万)2024.3搬送 20 件/月 →採算割れ官報 第 12345 号「解散公告」7p

失敗を避けるための対策:

失敗要因典型例回避策
需要過少人口 7 万・搬送 20 件/月 → 2 年で撤退開業前に医療機関と年間契約を確保
価格競争都市部で 10 社乱立 → 単価下落付帯サービスで差別化(酸素・多言語等)
人材不足夜間出動対応要員が確保できず受注制限副業看護師・夜勤専従シフトを導入

7. まとめ

民間救急は 法規制+薄利多搬送 の世界。正確な統計 → 実地調査 → 堅実な PL 管理 が成功の鍵です。

超高齢社会で確実に需要は拡大しますが、同時に競争も激化します。地域のニーズを正確に把握し、医療機関との信頼関係を築き、継続的な経営改善を行うことで、社会に貢献しながら事業を成長させることができます。

開業を検討されている方は、まず地域の消防本部で患者等搬送事業の認定要綱を確認することから始めてください。そして、必ず事前に詳細な市場調査と資金計画を立てることをお勧めします。


脚注・出典

  1. Fire and Disaster Management Agency (FDMA)『消防統計(救急)令和 5 年版』 Microsoft Word – 02
  2. Tokyo Fire Department『令和 6 年度救急業務概要(速報)』     kyuuki0124.pdf
  3. Tokyo Medi‑Care 移送サービス『運賃・料金表』運賃・料金|呼吸器搬送・医療搬送の東京メディ・ケア移送サービス(2025.5 閲覧)
  4. 東京消防庁『東京消防庁患者等搬送事業者』(2024.4 改訂)000005759.pdf
  5. のと介護タクシー『料金案内』ご利用料金|のと介護タクシー(2025.5 閲覧)
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救命士から民間救急への挑戦ストーリー 40代、2児の父。 約20年間、救命士として現場の最前線で活動してきました。 持病の悪化で現役続行を断念。民間救急開業への経過や現役救命士のサポート情報を発信していきます。