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救急救命処置の見直し2026|6項目の変更案と検討状況

情報基準日:2026年10月24日(初出:2026年10月9日)。厚生労働省「第3回救急救命処置の在り方に関する検討会」(2026年10月7日)の配付資料1と、同日の報道をもとに作成しています。議事録は2026年10月24日時点で未公開です。

救急救命処置の見直し6項目の現在地(2026年10月9日時点)。1 院外心停止のアドレナリン投与等の包括指示化:了承と報道、運用開始日は未定。2 気管切開チューブ事故抜去時の再挿入:位置づけの案。3 外傷性出血性ショックへのトラネキサム酸投与:実証で検証の案。4 乳酸リンゲル液以外の既存静脈路からのアドレナリン投与:条件付き明示の案。5 院外心停止の骨髄輸液路確保:追加見送りの案。6 病院救急救命士の特定行為認定:了承と報道、制度詳細は今後
出典:厚生労働省 第3回救急救命処置の在り方に関する検討会 資料1(2026年10月7日)、CBnews(2026年10月7日)をもとに作成

結論:救急救命処置の見直し6項目の現在地

2026年10月7日の厚生労働省検討会では、救急救命士が行う処置の範囲について6項目が議論されました。6項目は「新しい処置の追加」だけではなく、指示の受け方の変更、既存処置への位置づけ、条件の明示、認定制度の整備と、見直しの種類がそれぞれ違います。

最も現場への影響が大きいのは、心肺停止の傷病者に対する「静脈路確保」「アドレナリン投与」「声門上気道デバイスによる気道確保」を、症例ごとの具体的指示ではなく包括指示で行えるようにする案です。この案は検討会で了承されたと報じられました。

項目第3回資料で示された方向会合後の状況
1.アドレナリン投与等の包括指示化認めるかどうかと運用の在り方を論点として提示了承と報道(CBnews)
2.気管切開チューブ再挿入既存処置に含めて整理する案議事録未公開で未確認
3.トラネキサム酸の投与厚労科研等で実証・検証する案議事録未公開で未確認
4.乳酸リンゲル液以外の静脈路からのアドレナリン末梢静脈路に限り投与できると明示する案議事録未公開で未確認
5.骨髄輸液路確保現時点では追加を見送る案議事録未公開で未確認
6.病院救急救命士の特定行為認定MC協議会の認定を基本に、学会認定で補完する案了承と報道(CBnews)
出典:資料1 p.7、11、17、23、29、33/CBnews(2026年10月7日、2本)

じほう(MEDIFAX web)は「新たに2処置を救急救命士が医師の指示の下で実施可能とすることを大筋で了承」と報じていますが、どの2処置かは無料公開部分では確認できません。どの項目も、2026年10月24日時点で通知や運用開始日は確認できません。

この記事でわかること

  • 6項目それぞれの「今のルール」と第3回資料の案
  • 包括指示化の対象となる3処置と、対象外の処置
  • 「具体的指示」と「包括指示」の違い
  • 研究で示された医師の修正指示率の正しい読み方
  • いつから始まるのか――「了承」と「運用開始」の違い
  • 現場の救急救命士が今から準備しておくこと

この記事を書く理由

心停止の現場では、気道確保・静脈路確保・アドレナリン投与のたびに指示医師へ連絡します。この連絡は「医学的な判断を受ける機会」である一方、胸骨圧迫や搬送準備と並行して行う作業でもあります。救急隊長として、この両面を持つ指示要請がどう変わるのかは、現場にとって大きな関心事です。

「電話がなくなって早く打てる」という受け止め方だけが広がると、今回の議論の核心――早期投与と、DNARや終末期など個別判断が必要な場面をどう両立するか――が抜け落ちます。資料に書かれていることと、まだ決まっていないことを分けて整理します。

前提:救急救命処置と「特定行為」の仕組み

救急救命士法44条1項は、厚生労働省令で定める救急救命処置は、医師の具体的な指示を受けなければ行ってはならないと定めています。

この省令の規定が救急救命士法施行規則21条です。心肺機能停止状態の傷病者に対しては、「厚生労働大臣の指定する薬剤を用いた輸液(静脈路確保のためのもの)」「指定する器具による気道確保」「指定する薬剤の投与」が挙げられています。これが、いわゆる特定行為です。

具体的な薬剤・器具は厚生労働省の告示で、処置の範囲は通知「救急救命処置の範囲等について」(33行為)で示されています。

用語意味
具体的指示症例ごとに医師へ状況を伝え、その処置について指示を受ける
包括指示あらかじめMC協議会が定めたプロトコルに従って行う。AEDによる除細動がこの方式
特定行為具体的指示が必要な処置として省令で定められたもの
MC(メディカルコントロール)プロトコル策定、指示・指導助言、事後検証、教育の4つを中核とする質保証の仕組み
「具体的指示」と「包括指示」の流れの比較図。現在の具体的指示では、心停止を確認したあと処置ごとに医師へ連絡し、指示を受けて実施し、事後検証を行う。包括指示化後(案)では、MC協議会が事前にプロトコルを策定し、適応内なら処置を実施して実施報告・事後検証を行い、適応外や判断困難なときは医師に相談する
出典:厚生労働省 第3回救急救命処置の在り方に関する検討会 資料1(2026年10月7日)をもとに作成

前例として、2003年4月に半自動式除細動器による除細動が特定行為から除外されています(資料p.47)。包括指示化には特定行為の指定からの解除という法令上の措置が関係するため、検討会の了承だけで運用が切り替わるわけではありません。

6項目の検討状況:今のルールと第3回の案

6項目は見直しの種類が違うことを示す分類図。指示方法を変える:1 アドレナリン等の包括指示化。既存処置に含めて整理:2 気管切開チューブ再挿入。条件を明示する:4 既存静脈路からのアドレナリン。新処置の追加を検討:3 トラネキサム酸は実証へ、5 骨髄路は見送り(案)。認定の仕組みを整える:6 病院救急救命士の学会認定。共通の注意:いずれも通知・運用開始日は2026年10月9日時点で未確認
出典:厚生労働省 第3回救急救命処置の在り方に関する検討会 資料1(2026年10月7日)をもとに作成

以下の「案」は、検討会に示された事務局案です。会議で修正された点があるかどうかは、議事録の公開を待つ必要があります。資料のページ番号は、スライド右下の番号です。

1.院外心停止に対するアドレナリン投与等の包括指示化

  • 今のルール:静脈路確保・アドレナリン投与・声門上気道デバイスは特定行為で、症例ごとに具体的指示が必要
  • 第3回資料:包括指示による実施を認めるか、認める場合の運用(認定制度、適応の限定、事後検証を含むMC体制)を論点として提示(p.7)
  • 会合後:包括指示の下での実施を認める案が了承されたと報道(CBnews)

この項目は現場への影響が大きいため、後半の「包括指示化の詳しい解説」で詳しく整理します。

2.気管切開チューブの事故抜去時のチューブの再挿入

  • これまでの評価:令和元年度の委員会はカテゴリーⅠ(追加等が望ましい)。一方、厚生労働省は実施体制の構築が必要として、カテゴリーⅡ(さらなる検討が必要)の扱いとする意見を示していた(p.9)
  • 頻度:4消防本部の5年間(2014〜2018年)で3事例(うち2件が心肺停止)と、極めてまれ(p.10)
  • 第3回の案:新しい処置として追加するのではなく、既存の救急救命処置「特定在宅療法継続中の傷病者の処置の維持」に含めて整理する。気管切開術を受けた直後の事故抜去は対象外とし、主治医・訪問看護師・家族との調整、資器材の準備、地域MC協議会と在宅医療の連携をプロトコル等で明確にする(p.11)

3.外傷による出血性ショックに対するトラネキサム酸の静脈内投与

  • 委員会の判断:令和8年3月の報告書で、救急救命処置(特定行為)として追加することは医学的に妥当。ただし手技の習得、現場での実効性、病院到着時間への影響を実証事業で検証する必要がある(カテゴリーⅡ、p.16)
  • 根拠:CRASH-2(約2万人)で出血死の相対リスクが約15%減少。受傷後1時間以内の投与で効果が最も大きく(RR 0.68)、1〜3時間でも有効(RR 0.79)だが、3時間以降の投与は出血死をむしろ増やす(RR 1.44)とされる(p.14)
  • 想定:対象は全国で年間約3,400件と推計。実施する場合もオンラインでの具体的指示(特定行為)とされる(p.14〜15)
  • 第3回の案:厚生労働科学研究等で必要な検証を行う(p.17)。すぐに救急救命士が投与できるようになる案ではありません

4.医師等が乳酸リンゲル液以外で確保した静脈路からのアドレナリン投与

  • 今のルール:救急救命士が静脈路確保に使う輸液は告示で乳酸リンゲル液に限られる。医師等が別の輸液で確保した静脈路を使うことは、法令・通知上の明示的な規定がない。輸液を乳酸リンゲル液に交換すれば、現行でも投与できる(p.20)
  • 調査:救急救命士12名の想定調査で、交換ありは平均2分11秒、交換なしは平均1分07秒と、約1分の差(p.21)
  • 委員会の判断:末梢静脈路からの投与は医学的に妥当(カテゴリーⅠ)。中心静脈路は対象外が適当(p.22)
  • 第3回の案:投与できることを通知等で明示する。①中心静脈路は対象外(皮膚の穿刺部位が四肢の場合に限り、鎖骨下・頸部・鼠径部などは対象外)、②輸液の種類等を医師に報告し具体的指示を得る、③初回投与後は速やかに指定の輸液(乳酸リンゲル液)へ切り替える(p.23)

5.院外心停止に対する骨髄輸液路確保

  • 根拠:PARAMEDIC-3を含む3件のRCTで、骨髄路と静脈路の間に30日死亡率・神経学的転帰の有意差はなかった。資料が引用するJRC蘇生ガイドライン2025(パブリックコメント版)は、静脈路を第一選択とし、迅速に確保できない場合に骨髄路を代替として考慮するとしている(p.26)
  • 課題:救急救命士1人あたりの想定実施件数は年約0.8件と少なく、技術の維持が難しい。教育と費用の負担も大きい(p.26〜28)
  • 第3回の案:委員会の判断はカテゴリーⅢ(現時点で導入を急ぐ状況にない)。現時点では追加を見送り、静脈路確保成功率の全国調査、国内ドクターカー等の使用データ、アドレナリン筋肉内注射のRCT(2029年結論見込み)を踏まえて改めて検討する(p.29)

6.医療機関に所属する救急救命士の特定行為の認定制度

  • 今の仕組み:新たに追加された特定行為を行うには、追加講習を修了し、都道府県MC協議会の認定を受ける必要がある。消防機関所属の救急救命士は全47協議会で認定されているが、医療機関所属の救急救命士は、複数の協議会で認定業務が行われていない(p.31)
  • 第3回の案:都道府県MC協議会の認定を基本としつつ、補完する仕組みとして学会による認定制度を設ける。教育費用は受講者負担が基本とされた(p.33)
  • 会合後:学会認定を設ける案が了承され、MC協議会の認定体制が整うまでの「暫定的な措置」と報じられた(CBnews)

包括指示化の詳しい解説:何が変わるのか

救急救命士が心肺停止の傷病者に行っている「静脈路確保」「アドレナリン投与」「声門上気道デバイスによる気道確保」の3処置を、症例ごとの電話指示(具体的指示)ではなく、事前に定めたプロトコルに基づく「包括指示」で行えるようにする案が、2026年10月7日の厚生労働省検討会で了承されたと報じられました。

アドレナリン投与そのものは2006年から救急救命士の処置に含まれています。今回の論点は「新しく投与できるようになる」ことではなく、「医師の指示の受け方」です。なお、アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与は別の検討項目です。

2026年10月24日時点で、全国の運用開始日、認定要件、最終プロトコルを定めた通知は確認できません。報道では、事後検証まで行える体制のMC協議会が整った都道府県から順次実施できるようにするとされています。「明日から電話なしで投与できる」わけではありません。

ニュースの概要

項目内容根拠
会議厚生労働省「第3回救急救命処置の在り方に関する検討会」厚労省 会議一覧
開催日2026年10月7日同上
議題救急救命処置の範囲の見直しに関する検討(6項目)資料1
この節の対象院外心停止に対するアドレナリン投与等の包括指示化資料1 p.2〜7、p.35
提案団体北海道救急業務高度化推進協議会道央圏MC協議会資料1 p.3
結果包括指示による実施を認める案が了承(報道)CBnews(2026年10月7日)
議事録2026年10月24日時点で未掲載厚労省 会議一覧

これまでの経緯(時系列)

時期出来事
2006年4月エピネフリン(アドレナリン)の投与が救急救命士の処置に追加
2019年(調査期間)5消防機関で医師の修正指示事案を調査
令和2年度救急救命処置検討委員会が、3処置について「特定行為の指定を解除することが望ましい」と評価(カテゴリーⅡ:さらなる検討が必要)
2021年1〜9月(調査期間)仙台市消防局でパイロットデータ収集
令和3〜5年度厚生労働科学研究「救急救命士が行う業務の質の向上に資する研究」で実態調査、プロトコル案・講習カリキュラム案を作成
2025年6月13日規制改革実施計画(閣議決定)で、令和7年度検討開始・令和8年度結論の対象に
2026年10月7日第3回検討会で包括指示による実施を認める案が了承(報道)
未定通知発出、各都道府県MC協議会での体制整備、運用開始

包括指示化について資料に書かれていること

対象は3処置。気管挿管は含まれない

資料が対象とするのは、心肺停止傷病者に対する次の3処置です。

  1. 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液
  2. エピネフリン(アドレナリン)の投与
  3. 食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスクによる気道確保

資料には「気管内チューブを除く」と明記されています。気管挿管は引き続き具体的指示が必要な特定行為として残る前提で読むべきです。

令和2年度の評価には「付記」があった

委員会は特定行為の指定解除が望ましいとした一方で、次の付記を残しています(資料p.3)。

  • 全ての事例で医師の具体的指示が不要になるものではない
  • 傷病者の状況や救急救命士の経験によって、包括指示で可能な範囲と具体的指示が必要な範囲を、効果と安全性の両面から明らかにする必要がある
  • 事後検証や教育がより重要になるため、求められるMC体制も明らかにする必要がある

医師の「修正指示」はどれくらいあったか

5消防機関(石狩北部地区消防事務組合消防本部、札幌市消防局、仙台市消防局、東京消防庁、高槻市消防本部)の2019年の事案1,292例を調べた結果です(資料p.5、p.7)。

処置修正指示割合
静脈路確保29/4786.1%
アドレナリン投与44/43810.1%
声門上気道デバイス25/3766.7%
全体(事例単位)98/1,2927.6%
医師の修正指示率の棒グラフ。5消防機関・2019年・1,292事例。静脈路確保6.1%(29/478)、アドレナリン10.1%(44/438)、声門上デバイス6.7%(25/376)。修正の中心はDNAR・終末期への配慮とアドレナリンの投与回数の調整で、プロトコル逸脱を理由とする修正や、運用年数・ドクターカー有無による有意差は確認されなかった
出典:厚生労働省 第3回救急救命処置の在り方に関する検討会 資料1 p.5・p.7(2026年10月7日)をもとに作成

資料は、修正の内容がDNAR・終末期等への配慮と投与回数の調整が中心で、プロトコル逸脱を理由とした修正指示は確認されなかったと整理しています。また、救急救命士の運用年数やドクターカー事案か否かで、修正指示の有無に有意差はありませんでした。

読み違えやすい点:アドレナリンの修正指示率10.1%は「救急救命士の判断ミス率」ではありません。延命を望まない本人の意思や投与回数など、医師が治療方針を調整した割合です。

なお、仙台市消防局のパイロットデータ(651例)では、要請と異なる指示・助言は10例・15件で、静脈路確保7件(1.1%)、アドレナリン投与1件(0.2%)、声門上気道デバイス7件(1.1%)でした。理由として、病院が近い、延命を望まない本人の意思、医師が救命困難と判断した、などが挙げられています。

研究班が示した実施体制の考え方

研究班のプロトコル案には、調査で明らかになった具体的指示に残すべき範囲(ADLへの配慮、処置差し控えの意向など)が反映されています(資料p.6)。実施体制について、次のような議論が前提とされています。

  • 認定制度を設け、包括指示で実施できる救急救命士を限定すべきではないか
  • 指示・検証・教育の体制が充実したMC協議会に限定すべきではないか(指示要請への即時指示体制の担保を要件とする)

追加講習は、除細動の包括指示化の追加講習と同等の4時限とし、早期薬剤投与の意義や倫理面への配慮を盛り込む案です。いずれも研究班の案であり、全国の受講・認定要件として確定したものではありません。

比較された3つの指示方法

検討された3つの指示方法の比較図。包括指示:連絡は原則なし(プロトコルで事前に指示)、実施者は認定を受けた救急救命士に限定、課題は認定制度の負担と適応の限定。具体的指示の事前指示:連絡は現場到着前、実施者は全ての特定行為認定救命士、課題は傷病者確認前の指示の法令的精査。具体的指示の一括指示:連絡は接触後に1回で3処置まとめて、実施者は全ての特定行為認定救命士、報告例では初回投与まで30秒短縮したが転帰に有意差なし
出典:厚生労働省 第3回救急救命処置の在り方に関する検討会 資料1 p.35(2026年10月7日)をもとに作成

一括指示については、接触から初回アドレナリン投与まで30秒短縮した報告がある一方、その報告では搬送中の自己心拍再開率、生存搬入率、1か月後の神経学的予後に有意差がなかったと紹介されています。時間短縮と転帰改善は別の問題です。

検討会で問われた論点

資料p.7が検討会に示した問いは次の2つです。

  • 院外の心停止に対するアドレナリン投与等について、包括指示による実施を認めることをどう考えるか
  • 認める場合、実施可能な救急救命士の範囲と認定制度の要否、プロトコルにおける適応の限定、事後検証を含むMC体制をどう考えるか

包括指示化について資料・報道が言っていないこと

  • 運用開始日:資料にも公開報道部分にも記載はありません。
  • 全国一斉に始まること:報道は「体制が整った都道府県で順次」としています。
  • 認定要件・講習時間の最終形:4時限は研究班の案です。
  • 医師への連絡が一切不要になること:令和2年度の付記どおり、具体的指示が残る範囲が前提です。
  • 気管挿管の包括指示化:対象外です。
  • 包括指示化によって救命率が上がること:資料は早期投与への「期待」を示していますが、包括指示化による転帰改善を示したデータはありません。
  • 検討会での具体的な意見・修正点:議事録が未公開のため確認できません。

「包括指示化=何より先にアドレナリン」ではない

指示の受け方が変わっても、蘇生の優先順位が変わるわけではありません。参考として、米国心臓協会(AHA)の2025年ガイドラインは、成人心停止でのアドレナリン投与のタイミングを次のように整理しています。

心電図の波形アドレナリン投与のタイミング(AHA 2025)
電気ショックの適応がない波形可能な限り早く投与することが妥当
電気ショックの適応がある波形初期の除細動の試み(1回とは限らない)で心拍が再開しなかった後に投与することが妥当

同ガイドラインは、アドレナリンで自己心拍再開や入院までの生存は増える一方、神経学的に良好な状態での生存の改善は明確に示されていないという立場です。

※AHAは米国のガイドラインです。日本の救急救命士は、JRC蘇生ガイドラインに基づく各地域MC協議会のプロトコルに従います。包括指示化の効果は、薬そのものの効果とは別に検証される必要があります。

現場での比較:何が変わり、何が変わらないか

場面現在(具体的指示)包括指示化後(想定)
典型的な目撃ありの成人心停止処置ごとに指示要請プロトコルの適応内なら指示要請を待たずに実施の可能性
DNAR意思・終末期の情報がある医師が方針を調整具体的指示に残る範囲として扱われる見込み(研究班案)
投与回数の判断医師が調整(アドレナリンの修正指示で多く抽出)プロトコルでの規定内容が論点
病院が至近医師が搬送優先を指示する例ありプロトコルの扱いは未確定
気管挿管具体的指示変わらない
実施後事後検証事後検証・実施報告がより重要に

※「包括指示化後」の列は、資料の研究班案と論点をもとにした筆者の整理であり、確定した運用ではありません。

現場の救急救命士は何を判断するべきか

【筆者の考察】包括指示化は「電話が減る」こと以上に、プロトコルの適応内かどうかを、まず救急救命士が見極めることを意味します。修正指示の中心がDNAR・終末期と投与回数だったという研究結果は、医師の判断が必要な症例を現場で見落とさないことの重要性を示しています。DNARや処置差し控えの判断そのものを救急救命士が単独で行うようになるわけではなく、研究班案ではこうした場面は具体的指示に残す範囲とされています。

そのため、包括指示が始まったときに問われるのは手技ではなく、「この症例はプロトコルの適応内か、医師に相談すべき症例か」を短時間で切り分ける力です。

今から準備しておくこと(実務上の整理案)

以下は資料や通知が示した手順ではなく、資料の論点をもとにした実務上の整理案です。実際の運用は、所属するMC協議会のプロトコルに従ってください。

包括指示化に備えて確認しておくことのチェックリスト(筆者の整理案)。医師に相談すべき症例の条件:DNAR・終末期の情報がある、ADL・家族の意向が分かっている、病院が至近で搬送優先が妥当、アドレナリン投与回数の判断、ドクターカー等が同時に向かっている。組織・個人の準備:所属MC協議会の導入方針を確認、自隊の修正指示事例を理由別に整理、判断根拠を記録に残す習慣、終末期・ACPの基本を学習、事後検証の記録様式を見直す
筆者の整理案(検討会資料が示した手順ではありません)
  1. 自地域のMC協議会の動きを確認する:包括指示を導入する方針か、認定制度をどう設計するか。
  2. 「医師に相談すべき症例」の条件を言語化しておく:DNAR・終末期情報、ADL、家族の意向、病院までの距離、ドクターカー等の要請状況。
  3. 指示要請のやり取りを振り返る:自隊で修正指示を受けた事例を、理由別(意思・回数・搬送・状態)に整理しておく。
  4. 投与回数の考え方を確認する:アドレナリンの修正指示の分析で多く抽出された論点です。
  5. 記録と事後検証の準備:包括指示では実施後の報告と検証が前提になります。判断の根拠を記録に残す習慣をつける。
  6. 倫理面の学習:講習案にも盛り込まれている分野です。終末期・ACPの基本を確認しておく。

6項目以外ですでに了承された処置

資料の参考資料(p.41〜42)では、第1回・第2回の検討会で了承済みの処置が次のように整理されています。

  • 急性冠症候群等に対する12誘導心電図の測定と伝送:第1回で了承(通知発出済)
  • 心肺停止を対象にした自動式人工呼吸器による人工呼吸:第1回で了承(通知発出に向けて準備中)
  • アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与(自己注射製剤の処方を受けていない傷病者):第2回で了承(通知発出に向けて準備中)
  • 幸帽児に対する卵膜の用手的な破膜:第2回で了承(通知発出に向けて準備中)

よくある質問

Q1.救急救命士はこれまでアドレナリンを投与できなかったのですか?

いいえ。2006年から心肺停止傷病者へのアドレナリン投与は救急救命士の処置です。今回は、症例ごとの具体的指示を前提とする方式を見直す話です。

Q2.包括指示はいつから始まりますか?

2026年10月24日時点で、運用開始日を示す通知は確認できません。報道では、事後検証を行える体制が整った都道府県から順次とされています。

Q3.すべての救急救命士が包括指示で実施できるようになりますか?

研究班の案では、認定制度を設けて実施できる救急救命士を限定する考え方が示されています。最終的な要件は未確定です。

Q4.医師への連絡は不要になりますか?

一律に不要になるわけではありません。令和2年度の評価の付記で「全ての事例で具体的指示が不要になるものではない」とされ、DNARや終末期など具体的指示に残す範囲がプロトコル案に反映されています。

Q5.気管挿管も包括指示になりますか?

今回の対象には含まれていません。資料に「気管内チューブを除く」と明記されています。

Q6.救命率は上がりますか?

早期の薬剤投与による効果が期待されていますが、包括指示化によって転帰が改善したことを示すデータは資料にありません。一括指示の報告では、投与までの時間は短縮した一方で転帰に有意差はありませんでした。

Q7.救急救命士はトラネキサム酸を投与できるようになりますか?

すぐにではありません。委員会は医学的に妥当と判断しましたが、第3回資料の案は、厚生労働科学研究等で手技の習得や現場での実効性を検証するというものです。

Q8.骨髄路(骨髄輸液路確保)は救急救命処置に追加されますか?

第3回資料の案は「現時点では追加を見送る」です。静脈路確保成功率の全国調査や、2029年に結論が見込まれるアドレナリン筋肉内注射のRCTなどを踏まえて、改めて検討するとされています。

まとめ

  • 第3回検討会の6項目は、指示方法の変更、既存処置への整理、条件の明示、新処置の検証・見送り、認定制度と、見直しの種類が異なる。
  • 包括指示化の対象は心肺停止時の静脈路確保・アドレナリン投与・声門上気道デバイスの3処置。気管挿管は対象外。了承されたと報じられた。
  • 医師の修正指示はDNAR・終末期と投与回数が中心で、プロトコル逸脱による修正は確認されなかった。
  • トラネキサム酸は実証で検証、骨髄路は見送りの案。既存静脈路からのアドレナリンは末梢に限り明示する案。
  • どの項目も、通知・運用開始日は2026年10月24日時点で未確認。議事録の公開を待つ必要がある。

一次資料・参考資料

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救命士から民間救急への挑戦ストーリー 40代、2児の父。 約20年間、救命士として現場の最前線で活動してきました。 持病の悪化で現役続行を断念。民間救急開業への経過や現役救命士のサポート情報を発信していきます。